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呉軍。それしか書かないけど。しゅゆたんしゅゆたん!
孫策存命時代の、いつかの戦勝の宴。ギャグだけど最後はほのぼの。







(戦勝の宴。兵士も将もお酒入っちゃってもーテンション上がりまくりで大フィーバー、なたけなわ状態。一番盛り上がってるのはやっぱり孫策とその周辺。孫策の隣にいる周瑜もちょっとお酒入って気分上々。反対側の隣には呂蒙がかっちんこっちんで座っている。仕方ないよね、まわりみんな孫軍のお偉いさんだもんね。そんなことは微塵も気にせず、孫策が呂蒙の杯にどばどばと酒を注ぐ)

 

孫策:さあ飲め子明、遠慮するなよ。

呂蒙:は、はいっ!

(云われるがまま、かっちんこっちん状態でお酒を飲む呂蒙。あんまり強くないのにもし零したり飲み切れなかったりあまつさえ倒れて相手にぶっかけちゃったらどうしようとかそんな考えにぐるぐるして、見るからにやばそう。向かいでは呂範がこの上なく愉しそうな顔で見ている。鬼!)

呂蒙:ぷはあっ。

孫策:お、なかなかいい飲みっぷりだな。(がしがしと頭を撫でる)

呂蒙:うわ、わ、頭揺らされるとやばいですやばいですやばいですうっぷ。

周瑜:伯符、そのあたりにしておけ。

孫策:なんだ公瑾、硬いことを云うな。ほら、お前も飲め。

周瑜:お前の所為でさっきから飲みっ放しだろう。

(孫策の意識が周瑜に向いたおかげで、呂蒙がようやく解放される。でももう結構ぽーっときちゃってるね、うん。周瑜さんはなんだかんだ言い返しつつ、注がれた一杯をくいーっと一気に呷る。白い頬が上気している上、お酒で唇がしっとりと濡れている。おお麗しい!)

孫策:しかし何だ、男ばかりの宴というのもむさ苦しいな。

周瑜:意味もなく女を従軍させるわけにもいくまい。

孫策:いや、わかってはいるんだが、やっぱり華がない。

周瑜:そんなに華が欲しいなら、自分で女物でも着込んだらどうだ。

孫策:お、その手があったか。

周瑜:(大げさに額を抑え)……済まない、全て忘れてくれ。私も今聞いた言葉は忘れることにする。まさか私の離れていた間にお前に女装癖がついただなどとは夢にも思わなかった。大丈夫だ、孫軍の頭が変態嗜好の持ち主だなど、お前を気の毒にも慕って集まった者なら誰も口外しない。私も此処にいる者にはしっかりと口止めして、

孫策:おい、勝手に俺を変態に祀り上げるな。

周瑜:違うのか?

孫策:違うわ、阿呆!

(むすくれる孫策と、それを意地悪に追求する周瑜。かなり愉しげ)

呂蒙:な、何だか周郎、いつもと雰囲気違いますね。

呂範:酔っているのさ。

呂蒙:あれでですか? 結構しっかりしゃべってますけど。

呂範:あれでなんだよ。でなければ、これほどの人前で殿のことを字で呼んだり、ましてや対等な口などきくものか。

呂蒙:俺の前だとよくききますよ。

呂範:それはお前が信頼されているという話だ。よかったな。(頭がしがし)

呂蒙:じーん。と、殿っ。俺、孫軍に入ることができて、本当に嬉しいですっ。(感涙)

孫策:おい、子明!

呂蒙:は、はいっ!

孫策:お前が着ろ。

呂蒙:へ?

孫策:お前が女物を着ろと云った。

呂蒙:やっぱり前言撤回していいですか。

呂範:してもいいが、何も変わらんと思うぞ。

孫策:何をもたもたしている、早く着替えて来い。

呂蒙:ううう、なんで俺に話し振るんですか、殿。

孫策:女物は小さい。この中で一番背が小さくてひょろっちいのはお前だ。両方を照らし合わせれば、お前が着るのが一番都合がいいことになる。

呂蒙:ぐさっ。俺、もうついていけません。父上母上姉上許してください。

呂範:どうして私は入っていないのかねえ。

呂蒙:助けてくれたら義兄上も入れます。

呂範:それは無理だ。

呂蒙:はう。

孫策:呂蒙、早くしろ。

呂蒙:うううう。

周瑜:伯符、そう苛めるものではない。

呂蒙:ああっ、周郎。助けてくれると信じてました。

孫策:なんだ、水を差すなよ。

周瑜:せめてもの情けだ、どの服にするか程度は選ばせてやれ。

呂蒙:わかってます、この乱世の世、信じられるのは自分ただ一人ですよね。ふん。

呂範:あーあ、とうとうやさぐれたか。

周瑜:冗談だ、子明。そう腐るな。伯符、お前も無理強いするのはやめておけ。私に考えがある。

孫策:ほう?

(周瑜、侍従に呼びつけて、幾膳かの箸と朱墨を用意させる)

周瑜:この中のどれかの先に朱墨をつけ、それが隠れる深さの筒にいれる。引き当てた者が女装だ。これでどうだ?

孫策:へえ、そいつは面白そうだ。早速用意しようじゃないか。

呂範:その引く人物には、私も数えられているのだろうか。

周瑜:当然です。可愛い義弟を見捨てようとした罰ですよ。

呂範:はーあ。

孫策:おい、一本足りないぞ。

周瑜:何を云う、合っているではないか。私は入らないのだから。

孫策:何を云う、はこちらの台詞だ。ここまで関与して今更逃げられると思うのか。

周瑜:思うが。

呂範:いーや、駄目だ。未遂の私も巻き込まれているというのに、示唆した公瑾殿は蚊帳の外だなどと、そのような美味しい真似はさせんよ。

周瑜:示唆とは何です、示唆とは。

呂範:君が殿に女装を吹き込んだのだろう。

周瑜:あれは冗談です。第一、他人に着させようとしたのは伯符でしょう。

呂範:それなら私だって冗談だ。逃がしやしないよ。

呂蒙:周郎、一緒にやって下さいよお。人が増えたほうが確立は減るんですからあ。

周瑜:中に入らなければ零だろう。……全く、わかったわかった。そう耳元で喚くな。

孫策:おい、子衡、子明。

呂範:ん?

呂蒙:はい?

孫策:ごにょごにょごにょ。

呂蒙:そ、それはまずいですよう。

呂範:いいんじゃないか、楽しそうだし。

孫策:なら決まりだな。

周瑜:おい、一体何の話をしている。

孫策:いーや、何でも。あ、おい公瑾、お前自分が引いたからって屁理屈こねて逃げるのはなしだからな。

周瑜:今までにそんな例があったか?

孫策:両手の指でも足りないな。

周瑜:ふん、そこまで云うなら誓ってやろう。天地神明に誓って逃げ出しはせぬ。伯符、お前も誓え。

孫策:わかったわかった、天地神明に誓って。ほら、俺によこせ。用意するから。

周瑜:待て、そんな一際目立つ箸に朱を塗る奴があるか。

孫策:いいんだよこれで。そら、今だ!

呂蒙:よっと!

呂蒙:周郎、すみませんっ!

周瑜:?!

(周瑜以外の全員、一斉に箸を取る。残ったのは先ほどの一際目立つ箸のみ)

呂範:ほら、公瑾殿、早く取り給えよ。

周瑜:……はめたな。

孫策:取る時に声をかけるだなどと決めてなかっただろうが。(しれっ)

呂蒙:ごごごごめんなさい、周郎。

孫策:ほら、早く着替えて来いよ。天地神明に誓っただろう?(にやり)

周瑜:孫軍がここまで暗殺希望者揃いだとはついぞ知らなかった。身辺には気をつけておけ。

(周瑜、冷たい殺気を放ちながら天幕へ姿を消す。にやにやしながら見送る二人と、おどおどと様子を見守る一人)

呂蒙:大丈夫ですか、この後。

呂範:大丈夫とは何がだ。

呂蒙:周郎ですよ。物凄いしっぺ返しが来そうで、俺凄く怖いんですけど。

孫策:今更の話だ。それよりどう思う、あいつの女装。

呂範:貌はあの通りだし、いけると思うがなあ。

呂蒙:あ、俺もそう思います。

(周瑜が帰ってくる。豪奢な女物に身を包み、誰にされたのか化粧までばっちり。ものすごーく美しいのだが、如何見ても女ではない。あまりの違和感に一同大爆笑。周瑜のこめかみがぴくぴくと引きつっている)

呂範:いや、これは凄い。

呂蒙:周郎ならもしかしたら、と思ったんですけどねえ。

孫策:ここまでおかしいとは思わなかった!

周瑜:似合ってたまるか。ほら、二回戦だ。

呂蒙:ええっ、まだやるんですか。

孫策:一人いれば充分だろう、そんなに気味の悪いものを増やす必要はない。

周瑜:回数は決めていなかった。そうだな、伯符?

(紅をひいた唇が笑みの形につり上がる。艶やかとしか表現のしようがないが、滲み出る凄絶さに誰も首を振れない。笑みを崩さないまま準備にとりかかる周瑜。特におかしな手順はないが、筒が先ほどのものとは変わっていることに誰も気づいていない)

孫策:おい、公瑾、おかしな真似はするなよ。

周瑜:何を云う、私の動きにおかしな箇所があるか?

孫策:ないが、お前に任すと絶対におかしな仕掛けを施す。賭けてもいい。

周瑜:部下を信頼するのは主の肝要な務めだぞ。

呂蒙:あの、俺、子供なんでそろそろ寝ないといけないと思うんですけどっ。

呂範:宴に出て酒を飲んでまだ子供を名乗るか、お前は。

呂蒙:ここから逃げ出せるなら尻だって青く塗りますよう。

周瑜:子明。

呂蒙:はう、喜んで参加します。

呂範:なあ、やっぱり私もか?

呂蒙:今更逃がしませんよ、義兄上。毒を食らわば皿まで、死なばもろともです、ふふふ。

呂範:はーあ。

周瑜:安心しろ。何処かの誰かのように、いきなり開始して周囲を置いてけぼりにすることはせぬ。あからさまにわかる印をつけるようなこともな。

孫策:根に持ってやがる。狭量な奴め。

周瑜:生憎と記憶力は衰えていないのでな、お前のように三歩歩いて忘れるわけにもいくまい。

(どん、と筒が置かれる。箸はどれも同じもので、全く見分けがつかない。中を覗き込もうにも筒の細さと暗さとで見えない。更に付け加えて、机に置いた反動で、箸がばらばらに混ざり合っている。要するに、全く判別不可能。)

呂範:むー……どれだ。

呂蒙:ううう、どれも同じに見える。

周瑜:さあ、早く選べ。選べぬというのなら先に選ぶぞ。

孫策:ちょっと待て公瑾! その今触れた奴を俺に寄越せ。

周瑜:構わぬが。

呂蒙:な、何でしょう、あの余裕。

呂範:嫌な予感がするな。

周瑜:決めたか? もう引くぞ。

呂蒙:あああああ、これにします!

呂範:では、私はこれで。

周瑜:よし、一斉に引くぞ。それ。

(全員一気に箸を引く。四本の箸の、先はなんと全て赤い。全員目がまん丸。筒の底に朱墨が溜まっている)

孫策:げ。

呂蒙:はう。

呂範:あー。

周瑜:勝負あったな。

孫策:何が勝負だ、全部紅いじゃねえか!

周瑜:赤が何本かなど決めていなかっただろう。さあ、さっさと着替えて来るがいい。共に天地神明に誓った仲ではないか。そこに手伝いも待たせてあるぞ。ああ、私はもう着替えているから意味がないな。残念なことだ。

孫策:!!!!(何か叫んでいるが言葉になっていない)

呂範:えーと、それでは私たちはこの辺で失礼するよ。

呂蒙:そうそう、天地神明に誓ってもいませんし。

孫策:(地を這うような声で)子衡、子明。

呂蒙:はう。

呂範:天は我を見捨てたか。

周瑜:共謀して同志を陥れる奴に天は味方しません。よい教訓になりましたね。

孫策:煩い。行くぞ。

呂蒙:えーん、だから怖いって云ったんですよう。

呂範:仕方ない、行くぞ。これも天命だ。

(三人で天幕へ向かう。ふと振り向くと、後ろでは周瑜がしてやったりと笑っている。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、幸せなひと時。それにふと呂蒙は思う。)

呂蒙:ずっと、ずっと、みんなでこうしていられたらいいですね。

呂範:お前に女装志望があるとは知らなかった。

呂蒙:はう、そういう意味じゃありませんよう。







呂蒙はかわいそうなこでいいと思います。

宴 後 ←後日談。
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